不思議の国のアリス 第6章 ブタとコショウ

不思議の国のアリス

ルイス・キャロル,不思議の国のアリス,1985年

アリスはしばらくその家を眺めて立ちつくし、次に何をすべきかと思案していた。すると突然、従者の制服を着た男が森の中から駆けてきた――アリスが彼を従者だと思ったのは制服を着ていたからで、それがなければ顔つきだけを見て魚と呼んだであろう――彼は拳でドアを激しく叩いた。それに応えて現れたのは、同じく制服を着たもう一人の従者で、丸い顔にカエルのような大きな目をしていた。アリスが気づいたのは、どちらの従者も髪に白粉をふりかけており、頭全体にカールがかかっていたことであった。彼女はこの様子がとても気になり、森を少し抜けて耳をそばだてた。

アリスと従者たち
アリスと従者たち

魚のような顔をした従者は、脇の下から自分の体ほどもある大きな手紙を取り出し、もう一人の従者に渡して、重々しい口調でこう言った。「公爵夫人宛て。女王陛下からのクロケーのお誘い。」カエルのような従者も同じく重々しい口調で、語順だけ少し変えて繰り返した。「女王陛下より、公爵夫人へのクロケーのお誘い」

そして二人は深々とお辞儀をし、カールした髪が絡まりあった。

アリスはこの様子に思わず吹き出し、聞かれるのを恐れて慌てて森の中に戻った。そして次にそっと覗くと、魚の従者は去っており、カエルの従者がドアのそばに座り込み、空をぼんやり見上げていた。

アリスはおそるおそるドアに近づき、ノックした。

「ノックしても無駄ですよ」と従者は言った。「理由は二つ。第一に、私もあなたもドアの同じ側にいること。第二に、中の騒ぎがひどすぎて、誰も聞こえやしないこと。」確かに、家の中では途切れることのない遠吠えとくしゃみ、そして時おり食器ややかんが砕けるような大きな音が響いていた。

「それならどうやって中に入ればいいの?」とアリスは尋ねた。

従者は彼女の問いかけに構わず話を続けた。「もし私たちの間にドアがあったなら、あなたのノックにも意味があるかもしれませんね。たとえば、あなたが中にいて、ノックしたとしましょう。そしたら私が開けてあげられる、という具合に。」彼は話している間ずっと空を見上げていて、アリスはそれを無礼だと思った。「でも、仕方ないのかもしれないわ。頭のてっぺんに目があるような顔してるし。でも、せめて質問には答えてくれたっていいのに――どうやって入ればいいの?」彼女は声を上げて繰り返した。

「私はここに座っているつもりです」と従者は言った。「明日まで――」

その時、家のドアが開き、大きなお皿が飛び出して従者の顔めがけて飛んできた。皿は彼の鼻先をかすめて、背後の木に当たって粉々に砕けた。

「――あるいは明後日までかもしれませんね」と従者は平然と同じ調子で続けた。

「だから、どうやって入ればいいの?」とアリスは再び大きな声で尋ねた。

「そもそも、あなたが入るべきかどうかが問題でしょう」と従者は言った。「それがまず第一の問いですな。」

確かにそうではあったが、アリスはそんなふうに言われるのが気に入らなかった。「まったく嫌になっちゃうわ」と彼女はつぶやいた。「この世界の生き物は、何でもかんでも議論したがるのよ!気が変になりそう!」

従者はその台詞を繰り返す好機だと思ったらしく、言葉を少し変えてもう一度言った。「私はここに座ってます。何日も何日も、断続的にね。」

「でも、私はどうすればいいの?」とアリスは言った。

「好きにするがいい」と従者は言い、口笛を吹き始めた。

「もう、この人と話すのは無駄ね」とアリスは絶望的に言った。「まったくもって馬鹿げてるわ!」そして彼女はドアを開けて中に入った。

ドアの先はそのまま大きな台所につながっており、端から端まで煙で満たされていた。公爵夫人は三本脚のスツールに腰かけて赤ん坊をあやしており、料理人は火のそばに身を乗り出して、大きな釜をかき混ぜていた。どうやらその釜にはスープが入っているようだった。

「このスープ、コショウが多すぎるわ!」とアリスは、くしゃみをしながら自分に言った。

アリスと公爵夫人ら
アリスと公爵夫人ら

空気中にも確かにコショウが充満していた。公爵夫人ですら時折くしゃみをしており、赤ん坊に至ってはひっきりなしにくしゃみをし、泣き叫んでいた。台所でくしゃみをしないのは、料理人と、暖炉のそばで耳から耳まで口を広げて笑っている大きな猫だけであった。

「すみませんが」とアリスは少しおずおずと尋ねた。最初に話しかけるのが礼儀にかなっているかどうか自信がなかったのである。「なぜその猫はあんなふうに笑っているんですか?」

「チェシャ猫だからさ」と公爵夫人は言った。「それが理由さ。ブタ!」

その最後の一言はあまりにも突然に、しかも激しい口調で言われたので、アリスは思わず飛び上がった。しかし次の瞬間、それが自分ではなく赤ん坊に向けられた言葉だと分かり、勇気を出して再び話しかけた。

「チェシャ猫がいつも笑っているなんて知りませんでした。というか、猫が笑えること自体、知りませんでした。」

「みんな笑えるさ」と公爵夫人は言った。「たいていの猫は笑うもんさ。」

「私の知っている猫では、笑う猫はいませんが」とアリスはとても丁寧に言った。会話に入れたことが嬉しかったのである。

「おまえは知らないことが多すぎる、それが事実さ」と公爵夫人は言った。

アリスはその言い方がまったく気に入らず、話題を変えた方がよいと思った。彼女が何について話すか考えている間に、料理人はスープの釜を火から下ろすと、すぐさま手の届く限りのものを公爵夫人と赤ん坊に向かって投げ始めた――最初は火かき棒、それに続いて鍋や皿、料理皿が雨あられのように飛んだ。公爵夫人はそれが当たってもまるで気に留める様子もなく、赤ん坊はすでに泣き叫んでいたため、投げつけられた物で痛がっているかどうかも判別できなかった。

「ああ、お願いだから気をつけてください!」とアリスは恐怖に震えて飛び跳ねながら叫んだ。「ああ、大事なお鼻が――!」と、特に大きな鍋が赤ん坊の鼻先をかすめ、あやうく持っていかれそうになったときに叫んだ。

「誰もが自分のことだけ気にしてれば、世の中もっと早く回るってもんさ」と公爵夫人はしゃがれ声でうなった。

「それって、むしろ困ったことですよ」とアリスは、自分の知識を披露する良い機会だと思って嬉しそうに言った。「昼と夜がどうなっちゃうか、考えてみてください! 地球が自転“axis”するのに二十四時間かかるんですよ――」

「斧“axes”の話をしてるのかい」と公爵夫人が言った。「じゃあ、あの子の首をはねな!」

アリスは思わず料理人の方に目をやり、その言葉を真に受けるのではないかと不安になったが、料理人はスープをかき混ぜるのに夢中で、話など聞いていない様子だったので、彼女は話を続けた。「たしか二十四時間、だったと思います。でも、もしかして十二時間だったかしら。ああ、ええと――」

「もう、うるさくしないでちょうだい」と公爵夫人は言った。「私は数字なんて昔から大嫌いなんだから!」そう言い放つと、再び赤ん坊をあやし始め、子守歌のようなものを歌いながら、各行の終わりごとに激しく赤ん坊を揺さぶった。

小さな坊やには荒っぽく話、
 くしゃみをしたらぶってやれ:
 あの子はわざとそれをやる
 いらいらさせるのが好きだから

コーラス
(料理人と赤ん坊が合唱):

わあ! わあ! わあ!

公爵夫人が第二節を歌っている間じゅう、赤ん坊は激しく上下に放り投げられ、あまりに泣き叫ぶので、アリスには歌詞がほとんど聞こえなかった――

坊やには厳しく話し
くしゃみをしたらぶってやれ:
だってあの子は楽しんでる
好きなときにコショウをかぐのを!

コーラス:

わあ! わあ! わあ!

「はい、この子をしばらく抱いてていいわよ!」と公爵夫人は言い、言葉のとおりに赤ん坊をアリスに放り投げた。「女王とクロケーをしに行かなきゃならないの」と言い残して部屋を出ていった。料理人はその後ろ姿にフライパンを投げつけたが、かすりもせず外れた。

アリスはなんとかその赤ん坊を受け止めた。というのも、妙なかたちをしており、手足をあちこちに突き出していて、「まるでヒトデみたい」とアリスは思った。その小さな存在は、彼女が抱いたときにはまるで蒸気機関車のように鼻を鳴らしており、体をくしゃっと丸めたりまた伸ばしたりと、非常に不安定で、最初の一、二分はとても抱いていられる状態ではなかった。

どうにかこうにか適切な抱き方を見つけたあと――つまり、赤ん坊を結び目のようにひねって、右耳と左足をしっかり押さえておくことで元に戻らないようにすることだったが――彼女はそれを連れて外へ出た。「この子を連れて行かないと」とアリスは考えた。「数日中に殺されてしまいそうだもの。ここに置いていくのは、もはや殺人と同じよ!」彼女はこの最後の言葉を口に出して言ったところ、小さな存在は答えるようにグーッと鳴いた(そのころにはもうくしゃみは止まっていた)。「グーなんて言っちゃだめよ」とアリスは言った。「そんなの、自分の気持ちの表し方として全然だめよ。」

赤ん坊はまたグーッと鳴き、アリスは不安そうにその顔を覗きこんで、どこか具合が悪いのではと様子をうかがった。鼻は上を向いていて、もはや鼻というより豚の鼻面に見え、目も赤ん坊にしてはずいぶんと小さくなっていた。アリスはその見た目がどうにも気に入らなかった。「でも、たぶん泣いているだけよ」と思い、涙があるかどうか目を覗きこんだ。

いいえ、涙はなかった。「もしあなたが豚になるつもりなら」とアリスは真剣に言った。「わたし、もう関わらないからね。いい?」その小さな存在は再びすすり泣いた(あるいはグーッと鳴いた。区別はつかなかった)、そして二人はしばらく黙って歩き続けた。

アリスはちょうど「さて、この子を家に連れて帰ったらどうすればいいのかしら」と考え始めたところだった。すると赤ん坊はまたしてもものすごい勢いでグーッと鳴いたので、アリスは不安になってその顔を見下ろした。今回は間違いようがなかった――それはもはや、赤ん坊などではなく、正真正銘の豚だったのだ。これ以上抱いていくのはまったくばかばかしいことのように思えた。

そこでアリスはその小さな生き物を地面に下ろし、それが静かに森の中へトコトコ歩いていくのを見て、ひどくホッとした。「あの子が大きくなったら、きっとものすごく醜い子どもになったと思うけど、豚としてならなかなか立派よね」とアリスは心の中でつぶやいた。そして、彼女が知っているほかの子どもたちのことを思い浮かべながら、「あの子たちも豚に変えられたら案外似合うかも――もしその方法さえ分かれば」と考えていた。

そのとき、ほんの数ヤード(訳注:二、三メートル)離れた木の枝に、チェシャ猫が座っているのを見つけて、アリスは少し驚いた。

アリスとチェシャ猫
アリスとチェシャ猫

猫はアリスを見るとにっこりと笑った。その笑みは人懐っこく見えたが、それでも非常に長い爪と、たくさんの鋭い歯をしていたので、アリスは丁重に接するべきだと感じた。

「チェシャ猫さん……」とアリスはやや遠慮がちに話しかけた。というのも、その呼び名が気に入られるかどうか分からなかったからである。しかし猫はただ笑みをさらに広げただけだった。「あら、気に入ってくれたみたい」とアリスは思い、話を続けた。「お願いですが、ここからどちらの道に行けばよいか教えていただけますか?」

「それは、君がどこへ行きたいかによるな」と猫は言った。

「特にどこでもいいんだけど――」とアリスが言うと、

「それなら、どちらの道を行ってもかまわんさ」と猫は答えた。

「――どこかには着きたいの」とアリスは説明を加えた。

「それなら、十分に歩きさえすれば、必ずどこかには着くさ」と猫は言った。

これは否定のしようがなかったので、アリスは別の質問を試みた。「このあたりには、どんな人たちが住んでいるの?」

「そっちの方向には帽子屋が住んでいる」と猫は右前足をふわっと振りながら言った。「あっちの方向には三月ウサギが住んでいる。どっちを訪ねてもいいさ――どちらも狂ってるけどね」

「でも、狂った人たちのところには行きたくないの」とアリスは言った。

「そりゃ無理だよ」と猫は言った。「ここではみんな狂ってる。わたしも狂ってるし、君も狂ってる」

「どうしてわたしが狂ってるって分かるの?」とアリスが言った。

「君が狂ってなかったら、ここに来るはずがないさ」と猫は言った。

アリスはそんなことでは証明にならないと思ったが、とにかく話を続けた。「じゃあ、あなたが狂ってるってことは、どうして分かるの?」

「まず第一に」猫は言った。「犬は狂っていない。これは認めるかい?」

「たぶんそうね」とアリスは言った。

「ではね」と猫は続けた。「犬は怒ると唸って、嬉しいときには尻尾を振るだろう。ところが私は嬉しいときに唸り、怒ると尻尾を振る。だから私は狂っているのさ」

「それは『唸る』んじゃなくて『ゴロゴロいう』じゃないの?」とアリスは言った。

「好きなように呼ぶがいい」と猫は言った。「女王とクロケーをやるかい、今日?」

「ええ、とてもやってみたいけど、まだお招きされていないんです」とアリスは言った。

「そこに行けば私に会えるよ」と猫は言い、姿を消した。

アリスはあまり驚かなかった。奇妙なことに慣れてきていたからだ。彼女が猫がいた場所を見つめていると、それが突然また現れた。

「そういえば、あの赤ん坊はどうなった?」と猫が言った。「聞きそびれるところだったよ」

「豚になったのよ」とアリスは平然と言った。まるで自然にそうなったかのように。

「そうだろうと思った」と猫は言い、また消えた。

アリスは少しの間待っていた。猫がまた現れるのではと半ば期待していたが、現れなかったので、一、二分後には三月ウサギの家があるという方向へ歩き出した。「帽子屋なら何度か見たことあるし」と彼女は思った。「三月ウサギの方がずっと面白そう。それに、今は五月だから、三月ほど狂ってはいないかもしれないわ」そう言いながら顔を上げると、またしても猫が木の枝に座っていた。

「君は豚“pig”と言った?それともイチジク“fig”と言った?」と猫が言った。

「豚って言ったのよ」とアリスは答えた。「でもね、そんなに突然現れたり消えたりしないでほしいの。目が回りそうだわ」

「分かったよ」と猫は言い、今度はゆっくりと消えていった。尻尾の先から始まって、最後に笑みだけがしばらく宙に残った。

「まあ!笑いだけが残って猫がいないなんて、見たことないわ」とアリスは思った。「こんなに不思議なこと、人生で初めて!」

それからさほど歩かないうちに、三月ウサギの家が見えてきた。煙突が耳の形をしていて、屋根は毛皮で葺かれていたので、それと分かったのである。家があまりにも大きかったため、アリスはすぐに近づく気にはなれず、まずは左手に持っていたキノコを少しかじって背丈を二フィート(訳注:約六十センチメートル)ほどに戻した。それでもややおずおずと家に近づいていき、「やっぱり、ひどく狂っていたらどうしよう……帽子屋のところへ行けばよかったかも」と思いながら歩いた。

翻訳・編集

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